日本では、個人事業主が事業形態の大半を占めており、起業家にとって最も一般的な選択肢となっています。設立が迅速で費用も抑えられる個人事業主は、一人で経営する小規模ビジネスに適した形態です。
ビジネスを始める際には、個人事業主以外にも株式会社、合同会社(LLC)など、複数の法的形態があることを知っておくと役立ちます。選択する事業形態によって、税金の支払い方法、必要な書類手続き、投資家を募れるかどうかが変わってきます。
個人事業主には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。個人事業主のメリットとデメリットを理解し、自分のビジネスに適した形態かどうかを判断していきましょう。
個人事業主とは
個人事業主とは、一人の個人が所有する法人格を持たない事業形態です。法的には、事業主と事業が実質的に同一とみなされ、別個の法人格は存在しません。個人事業主は、すべての利益、損失、負債、法的要件に直接責任を負います。
そのため、個人事業主は無限の個人責任を負うことになります。つまり、事業上の債務が発生したり、訴訟などで会社に対して請求がなされたりした場合、自宅や個人の銀行口座といった個人資産がリスクにさらされる可能性があります。
個人事業主として運営するために、定期的なフルタイムの事業活動を行う必要はありません。本業に加えて副業を持つことも、自営業とみなされます。
個人事業主のメリット
1. 設立が簡単
個人事業主は、オンラインまたは対面で商品やサービスを販売する場合でも、最もシンプルな単独所有の事業形態です。法人化や事業登録、雇用者識別番号の取得は不要で、個人事業主はデフォルトの事業形態となっています。
そのため、資金ゼロでビジネスを始める場合にも適した選択肢です。ただし、都道府県や業種によって必要な営業許可や販売許可の申請は必要です。
2. 事業主が完全にコントロールできる
個人事業主では、製品の発売から成長ペースまで、すべての最終決定権を持つのは自分自身です。この自律性こそが、アウトドア用品ブランドRetrospecの創業者Ely Khakshouriが創業初期に単独経営を続けた理由でした。
「株式を保持することは私にとって非常に重要でした。たとえそれが成長を少し遅らせたり、在庫切れの期間が生じたりすることを意味していてもです」と彼はShopify Mastersのエピソードで語っています。
パートナー、取締役会、株主がいないため、事業に対する完全な権限と責任を持ちます。個人事業主の大きなメリットのもう一つは、利益の100%を保持でき、従業員を雇うかどうかも自由に選択できることです。
雇用は財務報告や税務申告の複雑さを増しますが、個人事業主が雇用できるスタッフの数に法的制限はありません。
3. 法人税が不要
大企業のように法人税を納める代わりに、個人事業主は個人所得税のみを支払います。確定申告書に事業所得の申告を添付するだけで完了です。
4. 他の事業形態よりコストが低い
個人事業主は都道府県や国の許認可要件を遵守する必要がありますが、他の事業形態と比べて書類手続きが少なく、手数料も抑えられます。
例えば、合同会社や株式会社に必要な定款や設立登記書類の提出は不要です。これらの費用は地域によって異なりますが、数万円から十数万円かかることもあります。
個人事業主は年次報告書や事業税の追加費用も不要です。これらの費用も地域によって異なります。
5. 税制上の優遇措置と再投資の機会
パススルー事業体として、個人事業主は事業の利益と損失を個人の所得として申告できます。法人が会社レベルと配当レベルで税金を支払う二重課税を回避できます。
個人事業主として、青色申告特別控除などの税制優遇を受けられる可能性があります。日本では、青色申告を行うことで最大65万円(電子申告の場合)、55万円、10万円の特別控除を受けることができます。また、事業に関連する経費を適切に計上することで、課税所得を抑えることも可能です。
活用できる税控除には以下のようなものがあります。
- 自宅兼事務所の経費:事業専用スペースの家賃や光熱費の一部を経費として計上できます。
- デジタルツールとサブスクリプション:Shopifyアプリ、AI自動化ツール、クラウドソフトウェアの費用は、事業に必要な経費として全額控除可能です。
- 技術機器とソフトウェアの減価償却:事業用のパソコンやソフトウェアなどの設備投資は、減価償却または一括償却資産として処理できます。
- 広告費とクリエイターとの提携費用:広告費、インフルエンサーへの報酬、コンテンツ制作費用はすべて100%控除可能です。
💡注意:個人事業主は一般的に、所得が一定水準以下の場合に有利です。単層の所得税と事業税を合わせても、法人の実効税率を下回るか、ほぼ同等になることが多いためです。
所得が増加すると、個人税率と事業税の合計が、合同会社を設立して役員報酬と配当の組み合わせで支払う税額を上回る可能性があります。これが、多くの個人事業主が利益が増えた段階で合同会社などに移行する理由の一つです。
6. シンプルな廃業手続き
個人事業を終了する場合、手続きは簡単です。また、合同会社や株式会社など、別の事業形態に再編することも可能です。
個人事業主のデメリット
1. 事業主の責任
個人事業主は事業主と事業を区別しないため、すべての債務と財務上の義務は事業主個人が負います。
この責任は従業員や契約者の行動にも及びます。彼らが事業に法的または財務的な負担を生じさせた場合、それを解決する責任はあなたにあります。個人事業主は、問題が発生した際に予期しない責任にさらされる可能性があります。
2. 無限の個人責任
個人事業主としての責任は、自宅、車、貯蓄などの個人資産にまで及びます。株式会社などの他の事業形態では、訴訟などのリスクからこれらの資産を保護できますが、個人事業主には責任保護がありません。特に法的リスクの高い分野で事業を運営する場合は、この可能性を考慮する必要があります。
3. 資本拠出の責任
個人事業主として、オフィス機器や在庫などの事業費用を賄う資本の源泉は、おそらくあなた自身だけになります。従来の金融機関は個人事業主をリスクの高い投資先とみなすため、融資を受けることは困難です。事業への支出を行う前に、それを支えるための財源があることを確認しましょう。
4. 資金調達の困難さ
投資家は一般的に、出資と引き換えに株式を求めますが、個人事業主は所有者が一人しかいないため、株式を提供することができません。この制限は、特に多額の資本投資を必要とする業界において、ビジネスを拡大する能力を妨げる可能性があります。
また、個人事業を売却することも困難です。事業全体を売却することはできませんが、資産を売却することは可能です。また、屋号(商号)を設定し、その権利を譲渡する場合に限り、購入者はあなたの事業名を使用できます。
5. 高い税率
個人事業主の税金は、株式会社などの他の事業体とは異なります。個人事業主として、個人所得税に加えて事業税を支払う必要があります。事業と個人の税金を合算した際に支払うべき金額を決定するには、時間と労力がかかることもあります。
年末に予想以上の税金を支払うことを避けるため、四半期ごとに事業税を見積もって支払うことが推奨されます。
個人所得税に加えて、個人事業主は社会保険料や国民健康保険料などの負担も考慮する必要があります。
個人事業主と合同会社の比較
合同会社(LLC)は、個人資産と負債を保護する独立した法人格です。また、株式会社などの異なる課税方法を選択でき、それぞれ独自の税制上の優遇措置があります。
デフォルトでは、一人合同会社は税務上「透明な事業体」として扱われます。つまり、株式会社としての課税を選択しない限り、個人事業主と同様に事業所得を申告します。初日から変わるのは、責任保護と都道府県レベルでの書類手続きの量です。
ビジネスがより多くのリスクを抱える場合、例えば在庫が増える、卸売契約を結ぶ、共同創業者を迎えるといった場合には、合同会社が通常最良の選択肢となります。
以下は合同会社を設立すべきかどうかを判断する際の簡単な比較表です。
| 個人事業主 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 設立費用 | 基本的に無料。屋号登録は数千円程度。 | 登記費用として6万円〜10万円程度。 |
| 継続的な費用 | ほとんどの場合なし。 | 年間数万円の税理士費用や登記関連費用が発生する場合がある。 |
| 責任 | なし。 | 事業の債務や訴訟は合同会社に留まる。 |
| パートナーと投資家 | 再編なしでは追加できない。 | 追加可能で、持分を提供できる。 |
| 事業税 | 利益の100%に対して課税。 | 同様だが、課税方法を選択できる。 |
| 信用力 | 金融機関や取引先からリスクが高いとみなされる。 | 独立した法人格により、与信枠や大型契約を獲得しやすい。 |
要約すると、
- アイデアを試している段階、リスクの低いサービスを提供している、追加費用をかけたくない場合は、個人事業主のままでいるのがおすすめです。
- 物理的な商品を扱う、所有権を共有する、個人資産を保護したい場合は、合同会社を設立するのが良いでしょう。
個人事業主はあなたのビジネスに適しているか
個人事業主は、フリーランサー、コンサルタント、その他の独立契約者など、一人で所有・運営する小規模ビジネスに最適です。この形態は、リスクが低く利益も少ない企業に適しています。多くの場合、個人事業主は趣味や副業から始まり、本格的なビジネスへと成長していきます。
課題はあるものの、個人事業主は起業への容易な入り口を提供します。最小限の初期費用、少ない書類手続き、事業の完全なコントロールにより、ビジネスアイデアを検証したり、小規模で個人的なビジネスを運営したりするには優れた方法です。
ただし、この事業形態に関連するリスクを理解し、軽減することが、予期しない課題を避けるために不可欠です。
国際的な考慮事項
国境を越えた販売には、個人事業主がこの形態にコミットする前に考慮すべきコンプライアンス要件が追加されます。
- 消費税とVAT(付加価値税):欧州連合に商品を発送する場合、各国のVATに登録するか、150ユーロ未満の注文については輸入ワンストップショップ(IOSS)システムを選択する必要があります。IOSSを利用すると、単一のポータルを通じてVATを徴収・納付できます。
- 海外の銀行と決済:Shopify Managed Marketsやサードパーティの販売代行サービスなどのツールは、手数料と引き換えにVAT、関税、通貨換算を処理できます。自分で管理する場合は、複数通貨口座を開設し、為替差損益を事業所得に反映させる必要があります。
- 複数の管轄区域にわたる責任:海外で提起された製造物責任やプライバシー訴訟は、個人事業主として防御するのが難しい場合があります。創業者は、国境を越えた収益を得始めると、合同会社を設立したり、現地子会社を設立したりすることが多くなります。
成長と移行計画
個人事業主は副業を検証するのに適していますが、特定のビジネスマイルストーンに達したら、事業形態を見直す時期です。
- 純利益が継続的に600万円〜1,000万円の範囲にある:このレベルでは、事業税が単独経営のコスト削減効果を上回る可能性があります。税理士に相談して、合同会社を設立すべきかどうかを判断しましょう。
- 共同創業者や株式投資家を迎える:個人事業主は所有者を追加できません。解散して複数人の合同会社、有限責任事業組合、または株式会社として再編する必要があります。
- 大型契約、在庫、事業用与信枠の拡大:大口の発注や与信オプションにより、個人資産がより多くリスクにさらされます。
- 正社員の雇用:成長に伴い、給与計算のコンプライアンスと福利厚生プランがより複雑になります。金融機関も法人格を持つ事業体を好みます。
全体として、個人事業主から合同会社への転換は、登記レベルの手続きです。法人番号(取得している場合)、銀行口座、Shopifyストアはそのまま維持されます。ビジネスが拡大するにつれて、責任保護とより有利な税務計画という追加のメリットが得られます。
個人事業主のメリットに関するよくある質問
個人事業主はどのように課税されますか?
個人事業主は、事業のすべての収入と支出に個人的に責任を負い、利益または損失は直接個人の確定申告に反映されます。別個の事業税申告を行うのではなく、事業所得と経費を確定申告書に記載します。事業主は個人所得税率で課税され、社会保険料や国民健康保険料なども支払います。
個人事業主として従業員を雇用できますか?
個人事業主として従業員を雇用できます。ただし、雇用する際には、税務署に届出を行い、従業員の給与から所得税や社会保険料を源泉徴収する必要があります。また、労働基準法や最低賃金、労災保険などの国や都道府県の労働法を遵守する必要があります。
個人事業主を別の事業形態に転換できますか?
個人事業主を別の事業形態に転換できます。多くのビジネスは個人事業主として始まりますが、成長するにつれて、合同会社や株式会社などの別の事業形態に移行することがあります。
別の形態に転換することで、追加の責任保護や税制上のメリットが得られます。転換のプロセスは地域によって異なるため、変更を行う前に税理士や弁護士に相談することをおすすめします。
個人と事業の財務を分ける必要がありますか?
技術的には、個人と事業の財務を分ける必要はありません。ただし、個人事業主であっても分けることを強くおすすめします。
専用の事業用銀行口座とクレジットカードを持つことで、経費の追跡、キャッシュフローの管理が容易になり、個人取引と事業取引の明確な区別を示すことができます。この分離は、将来的に法人化したり、外部資金を求めたりする場合にも有益です。
個人事業主のメリットとデメリットは何ですか?
個人事業主は迅速かつ低コストで開始できます。意思決定を完全にコントロールでき、パススルー課税の恩恵を受けるため、利益は直接個人申告に流れ、二重課税を回避できます。
トレードオフは無限の個人責任です。自宅や車などの個人資産が訴訟や債務のリスクにさらされ、さらにすべての収益に事業税が適用されます。




