マイクロサービスはeコマースシステムを柔軟に構築できる手法として注目され、大規模なウェブサイトでも採用されています。その一方で、運営にかかるコストや負担も大きく、すべてのビジネスに適しているわけではありません。
この記事では、マイクロサービスの基本的な仕組みや、メリットとデメリットを詳しく解説します。自社EC構築にマイクロサービスを採用すべきか検討している方はぜひ参考にしてください。

マイクロサービスとは
マイクロサービスとは、ひとつのシステムを、機能ごとに独立した小さなサービスの集合体として構築する、ソフトウェアの設計手法です。各サービスを個別に開発し、それらをAPIで連携させます。
マイクロサービスには以下のような特徴があります。
- 複数サービスの集合体である:マイクロサービスでは、各サービスが特定の機能やタスクに対応するように構築されます。
- 通信プロトコルに依存する:サービス同士は、HTTPなどの通信プロトコルを使用して通信します。
- 機能ごとに構成される:たとえばECなら、顧客管理と決済は別のサービスとして分けられるなど、サービスはビジネスの役割などを単位にして分割されます。

マイクロサービスのメリット
- 柔軟性と俊敏性:システム全体に手を加えることなく、機能単位で更新できるため、新しい機能をこまめにデプロイ(システムへの反映)しながら、迅速に試行と改善を重ねられます。
- 開発チームの独立性:開発者やチームは他の機能の状況に左右されずに作業を進められ、異なるツールやフレームワークを組み合わせて使えます。
- 開発の迅速性:複数のチームが並行して開発を進められるため、新機能や新製品のリリースまでの時間を短縮できます。
- カスタマイズ性:機能ごとに異なる技術を組み合わせて、自社の要件に合った独自のシステムを構築しやすくなります。
- 拡張性:機能単位で処理能力を拡張できるため、システム全体を拡張することなく、必要な部分だけを増強できます。

マイクロサービスの7つのデメリット
- 運用や保守のためのコストが増加する
- 組織運営の負担が増える
- サービス間の連携が複雑になる
- 障害が連鎖するリスクがある
- サイトのパフォーマンスが低下しやすい
- セキュリティの管理範囲が広がる
- データの一貫性を保ちにくい
1. 運用や保守のためのコストが増加する
マイクロサービスでは、独立した多数のサービスをそれぞれ個別に運用する必要があるため、管理の手間とコストが大きくなりがちです。
たとえば、あるライブラリにセキュリティ上の脆弱性が見つかった場合、そのライブラリを使っているサービスすべてに対して、個別にテストや修正を行う必要があります。各サービスが異なる技術で作られている場合は、それぞれの技術に精通した人材が必要になり、人件費も膨らみます。
加えて、サーバーやネットワークといったインフラもサービスごとに用意する必要があり、サービスの数が多いほどコストが上乗せされます。
2. 組織運営の負担が増える
マイクロサービスでは、複数のチームが並行して開発を進めるため、組織の管理が複雑になります。チームごとの責任範囲やチーム間のやり取りの方法などを誰がどう管理するのかを決めておく必要があり、チーム数が増えるほどこの負担は大きくなります。
こうした管理を怠ると、チーム間で知識を共有できなくなり、チーム連携による開発効率の向上というメリットが失われます。また、同じ機能を複数のチームが別々に開発してしまったり、逆にどのチームも手をつけない機能が放置されたりするといった問題が起こりやすくなります。
3. サービス間の連携が複雑になる
マイクロサービスでは各サービスをAPIを通じて連携させるため、サービスが増えるにつれて全体の構造が入り組んでいきます。結果として、管理の手間がかかったり、思わぬところで不具合が起きてしまったりします。
たとえば、ひとつのサービスのAPIを変更すると、そのAPIを利用している他のサービスが正しく動作しなくなる可能性があります。連携が入り組んでいるほど影響範囲の把握が難しく、事前のテストでは見つからなかった不具合が本番環境で発覚することもあります。
さらに、影響を受けるサービスはそれぞれ別のチームが管理しているため、変更のたびに関係チームとの合意や、リリースタイミングの調整といったやり取りが発生します。
4. 障害が連鎖するリスクがある
マイクロサービスでは、多数のサービスが連携して動作するため、ひとつのサービスで発生した障害が、それに依存する他のサービスへ波及するリスクがあります。
さらに、各サービスが独自の仕組みで動いていると、エラーなどを監視する仕組みも統一されていないため、障害が発生した際にどのサービスが発生元で、どの経路で影響が広がったのかを追跡しにくくなります。
5. サイトのパフォーマンスが低下しやすい
マイクロサービスではサービス同士がネットワーク経由で通信するため、常にネットワークの不確実性リスクに晒されています。応答の遅延や一時的な通信切断などは常に起きる可能性があり、サイトパフォーマンス低下の原因になります。
たとえば、ひとつの処理を完了するために複数のサービスを順番に呼び出す場合、サービス間の通信のたびにわずかな遅延が発生します。サービスの数が多いほどこの遅延は積み重なります。
6. セキュリティの管理範囲が広がる
マイクロサービスでは、各サービスがネットワーク経由でリクエストを受け付ける入り口を持っています。この入り口は正規の通信だけでなく、外部からの不正アクセスも受け付けてしまう可能性があるため、サービスの数が増えるほど攻撃されるリスクも増えることになります。
さらに、サービスによって採用するセキュリティシステムが異なる、インシデント対応体制に違いがあるなど、セキュリティ対策にばらつきがある可能性があると、ひとつでも対策が不十分なサービスがあれば、そこがシステム全体の弱点になってしまいます。そのため、すべてのサービスに対して、不正アクセスを防ぐ認証の仕組みを実装し、維持する必要があります。
7. データの一貫性を保ちにくい
マイクロサービスでは、サービスごとに個別のデータベースを持つのが一般的で、同じデータが複数のサービスにまたがって存在するため、サービス間でデータの内容にずれが生じる可能性があります。
たとえばECサイトで注文が入った場合、在庫機能が在庫データを更新し、決済機能が代金を処理します。決済が失敗した場合などに在庫数だけは減った計算のままだと、データの整合性が崩れてしまいます。
サービス間のデータを連携させる仕組みも考案されていますが、自前で設計や実装する難易度は高く、サービスの数や連携パターンが増えるほどコストも上がっていきます。

マイクロサービスの主な活用事例
- リアルタイムのデータ処理と分析:サービスごとにリアルタイムでデータ処理や分析を行い、ビジネスの意思決定やユーザーへのフィードバックを迅速に行います。
- バッチ処理:大量のデータを一定期間ごとにまとめて自動処理するタスク(バッチ処理)を、複数の小さなサービスに分散することで、大量のデータを同時に処理し、システム全体の効率を最大化します。
- アクセス集中の分散:アクセスが集中した特定の機能だけを拡張し、限られたリソースやコストを効率的に使います。
- 機械学習:さまざまな機械学習モデルを個別のサービスとしてシステムに組み込み、管理や拡張を行いやすくします。
- IoT(モノのインターネット):複数のサービス間でタスクを分担することで、IoTデータを効率的に処理します。

マイクロサービスの向き不向き
システムの規模が大きい場合は、マイクロサービスが有効です。規模が大きいほど扱う機能の数が多くなり、それぞれの更新頻度やトラフィックにも差が出てきます。
マイクロサービスで各機能を独立させることで、それぞれを個別のペースで改善したり拡張したりできるようになり、業務効率を高められます。
たとえばAmazon(アマゾン)は、商品検索、決済、レコメンドなど複数の機能を抱えており、それぞれを個別に開発し運用しています。サービスが独立しているため、ひとつの機能を更新する際、他の機能への影響を最小限に抑えられます。
一方、小〜中規模システムの場合は、サービスを細かく分割しても、それに見合うメリットを得にくくなります。
たとえば、マイクロサービスの利点のひとつに、負荷のかかる機能だけを個別に拡張できるという点がありますが、そもそもトラフィックが少なければ、特定の機能だけを拡張する必要がありません。また、機能の数自体が少なければ、分割せずにひとつのシステムとして管理したほうが、更新やリリースも素早く行えます。
加えて、規模が小さければサービスごとにチームを編成するだけの人員がおらず、少ない人数で多くのサービスを掛け持ちすることになり、ひとりあたりの運用や保守の負担が大きくなってしまいます。
そのため、多くの場合、マイクロサービスは不必要なコストと複雑さを招くだけで、顧客に価値をもたらすプロジェクトに割くべき予算や人員を浪費することになりかねません。Shopify(ショッピファイ)のような柔軟性の高いコンポーザブルアーキテクチャをベースとしたプラットフォームを利用し、必要に応じて機能拡張するほうが良いでしょう。
まとめ
マイクロサービスは、各機能を独立したサービスに分割することで柔軟性を得られるEC設計手法です。しかし、柔軟性と引き換えにコストの増加や開発効率の低下などのデメリットが伴うため、すべてのEC事業者にとって最適な選択肢であるわけではありません。
初期費用や運用の負担を抑えてECサイトを構築するなら、SaaS型プラットフォームが現実的です。アプリやAPI連携に対応したShopifyのようなプラットフォームなら、機能を柔軟に追加するマイクロサービス的な運用も可能です。
まずは自社の規模や予算を見極め、事業の段階に見合うECサイト構築方法を選びましょう。
マイクロサービスに関するよくある質問
マイクロサービスとは?
マイクロサービスとは、システムの設計手法のひとつで、各機能を独立したサービスとして開発します。各サービスはAPIで連携させます。
マイクロサービスとモノリシックの違いは?
マイクロサービスが各機能を独立したサービスに分けてAPIで連携させるのに対し、モノリシックはすべての機能を一体化してシステムを構築します。
マイクロサービスのデメリットは?
- 運用や保守のためのコストが増加する
- 組織運営の負担が増える
- サービス間の連携が複雑になりやすい
- 障害が連鎖するリスクがある
- サイトパフォーマンスが低下しやすい
- セキュリティの管理範囲が広がる
- データの一貫性を保ちにくい
マイクロサービスに向き不向きはある?
マイクロサービスは大規模システムには向いていますが、小〜中規模システムには向いていません。
マイクロサービスは失敗しやすい?
マイクロサービスを自社の規模や体制に合わない状態で導入すると、デメリットがメリットを上回り、失敗につながりやすくなります。




