社会問題の解決に取り組みたいと考えたとき、寄付をしたり、ボランティアで支援したりするだけでなく、ビジネスという形で関わるという選択肢が注目されています。その代表的な形態が、ソーシャルベンチャーです。
近年、消費者は商品そのものだけでなく、「どんな価値観をもつ組織がつくった商品か」を重視するようになっています。2024年に消費者庁が実施した消費生活意識調査によると、「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」と答えた人は、53.3%にのぼりました。環境に配慮した商品や、社会的背景を持つ商品を選ぼうとするエシカルな消費を求める人にとって、事業を通じて社会問題に向き合うソーシャルベンチャーは、有力な選択肢となります。
本記事では、ソーシャルベンチャーの定義や種類、参入の利点を整理し、実際の企業事例も交えながら、その特徴をわかりやすく解説します。
ソーシャルベンチャーとは

ソーシャルベンチャーとは、社会問題の解決を目的とし、ビジネスの考え方や仕組みを取り入れて活動する組織や事業のことです。ソーシャルエンタープライズとも呼ばれ、貧困、環境問題、教育格差、地域の活性化など、社会が抱えるさまざまな課題に対し、事業活動を通じて解決を試みます。
ソーシャルベンチャーのビジネスモデルの特徴は、寄付や支援に頼るだけではなく、商品やサービスの提供、事業運営の工夫など、ビジネス的な手法を活用して課題解決を継続しようとする点です。会社を立ち上げ収益を増やすことを目的とする場合もあれば、非営利の立場で活動を続ける場合もあり、その形は一つではありません。
ソーシャルベンチャーの種類

1. 営利型ソーシャルベンチャー
営利型ソーシャルベンチャーは、収益を上げることを前提に事業を行いながら、その手段として社会問題の解決に取り組みます。株式会社などの営利企業として、商品やサービスを提供し、売上を立てながら事業を継続します。
利益そのものを目的とするのではなく、安定した収益によって社会課題への取り組みを広げていきます。市場需要に応えながら成長できるため、資金調達や従業員の採用がしやすく、社会的インパクトを拡大しやすい利点があります。一方で、収益性と社会的な目的のバランスを保つ姿勢が求められます。
2. 非営利型ソーシャルベンチャー
非営利型ソーシャルベンチャーは、NPO法人や一般社団法人などの形態をとり、事業で得た収益をすべて活動の継続や拡大に充てます。
社会問題の解決を最優先とし、利益配分を行わないため、社会的意義やミッションを明確に打ち出しやすく、共感を軸とした支援を集めやすい点が特徴です。一方で、寄付や助成金への依存度が高くなりやすく、安定した運営が課題となる場合もあります。
3. ハイブリッド型ソーシャルベンチャー
ハイブリッド型ソーシャルベンチャーは、営利型と非営利型の要素を組み合わせて事業を行うタイプです。収益を生み出す事業と非営利的な活動を併せ持ち、両者を連動させながら社会問題の解決に取り組みます。
営利事業の利益を非営利活動に充てたり、株式会社とNPO法人を併設したりすることで、収益性と社会性のバランスを柔軟に設計できる点が特徴です。持続性と社会的インパクトの両立を重視したい場合に適した形態といえるでしょう。
ソーシャルベンチャーを始める利点

社会に具体的なインパクトを与えられる
ソーシャルベンチャーは、社会課題の解決を事業の目的としているため、商品やサービスを通じて社会に具体的な変化をもたらすことができます。事業活動そのものが課題解決につながるため、売上や成長と同時に、社会的な成果を生み出しやすい点が特徴です。
取り組みの結果が、環境負荷の削減や雇用の創出、地域の活性化など、目に見える変化として表れやすいことも、ソーシャルベンチャーならではの強みといえるでしょう。
社会的意義のある活動と仕事を両立できる
ソーシャルベンチャーでは、社会にとって意味のある取り組みを、ボランティアではなく仕事として続けることができます。収益を生み出す仕組みを持つことで、社会的意義のある活動を一時的な取り組みではなく、継続的な事業として成り立たせることが可能になります。
事業と生活の両立を図りながら、長期的な視点で社会課題に向き合える点は、起業や事業運営における大きな利点です。
共感を軸としたコミュニティを築ける
明確なミッションや価値観を掲げるソーシャルベンチャーには、その考え方に共感する人が集まりやすくなります。顧客や支援者、パートナーとの関係を積み重ね、コミュニティを築いていくことができます。
こうしたつながりは、単なる取引関係にとどまらず、長期的に事業を支える土台となります。
社会課題に対する人々の意識や価値観の変化を促せる
ソーシャルベンチャーは、社会課題を単なる情報として伝えるのではなく、商品やサービス、事業活動を通じて体験として届けることができます。そのため、関わる人々が「社会とどう向き合うか」を考えるきっかけを提供できます。
課題を身近な選択や行動と結びつけて提示することで、意識や価値観が少しずつ変わり、その変化が行動や判断にも影響を与えていきます。
ソーシャルベンチャーの例

グラミン銀行
グラミン銀行は、バングラデシュで経済学者のムハマド・ユヌス博士が創設した、ソーシャルベンチャーの原点ともいえる機関です。貧困層、とくに従来の金融機関から融資を受けられなかった人々に対して、担保なしで少額の融資(マイクロファイナンス)を行い、起業や自立を支えてきました。
この取り組みの特徴は、貧困層を単なる「支援の対象」ではなく、事業を通じて自ら収入を生み出せる可能性を持った存在として捉えた点にあります。
そのノウハウを元に、2018年には日本でもグラミン日本が設立されました。
株式会社クラダシ
株式会社クラダシは、フードロス削減を目的としたECサイト「Kuradashi」を運営するソーシャルベンチャーです。賞味期限が近い商品や、規格外などの理由で廃棄されてしまう可能性のある食品を販売し、まだ食べられる食品を無駄にしない仕組みをつくっています。
特別な行動を求めるのではなく、買い物という普段の行為を通じて、フードロス削減に参加できる形を実現しています。消費者の日常の買い物そのものを社会課題の解決に結びつけた好例です。売上の一部は「クラダシ基金」を通じて、環境保全や福祉、災害支援などの社会貢献活動に活用されています。
株式会社ヘラルボニー
株式会社ヘラルボニーは、知的障害のある作家が生み出すアートを起点に、ブランドを展開する岩手県発のソーシャルベンチャーです。知的障害のある作家が生み出すアートを、支援の文脈に閉じ込めるのではなく、特性から生まれる魅力として正当に評価し、ブランドとして社会に提示している点が特徴です。
同社が掲げる「異彩を放て」という言葉は、違いを違いのまま差し出すという姿勢の表れでもあります。ヘラルボニーは、アートの力を通して、人々の障害に対する見方や価値観に静かな変化を促しているのです。
まとめ
ソーシャルベンチャーは、社会問題の解決を目的としながら、ビジネスとして継続できる仕組みをつくる取り組みです。社会に具体的なインパクトを与えられることや、意義のある活動を仕事として続けられること、共感を軸に人やコミュニティがつながっていくことは、ソーシャルベンチャーならではの特徴といえるでしょう。また、事業やブランドを通じて、人々の意識や価値観に静かな変化をもたらす可能性を持っている点も、大きな魅力の一つです。
ソーシャルベンチャーは、社会課題に向き合うための「起業の形」にとどまらず、私たち自身の社会との関わり方や選択のあり方を問い直すヒントとしても捉えられるはずです。
よくある質問
ソーシャルベンチャーで有名な企業は?
- グラミン銀行 :担保なしの少額融資を通じて貧困層の自立を支援しています。ソーシャルベンチャーの先駆けです。
- 株式会社クラダシ:フードロス削減を目的としたECサイトを運営しています。
- 株式会社ヘラルボニー:知的障害のある作家のアートの価値を再定義し、ブランドとして社会に提示しています。
- 株式会社マザーハウス:発展途上国の素材や技術を生かしたバッグ販売を通じて、途上国の可能性を伝えています。
- 合同会社シーベジタブル:海洋環境の保全と食の持続可能性を両立させる事業を展開しています。
ソーシャルベンチャーとNPOの違いは?
ソーシャルベンチャーは、社会問題の解決を目的とし、ビジネスの仕組みを活用して活動する取り組み全体を指す考え方です。その一形態として、NPO法人や一般社団法人などの非営利組織があります。
NPOは、利益配分を行わず、寄付や助成金、事業収益を活動に再投資する非営利型のソーシャルベンチャーと位置づけることができます。一方で、株式会社として収益を確保しながら課題解決に取り組む営利型や、両者を組み合わせたハイブリッド型も存在します。
ソーシャルベンチャーは利益を出しても問題ない?
はい、問題ありません。ソーシャルベンチャーは、社会問題の解決を目的としながらも、事業として継続するために収益を上げることが前提となっています。利益は、事業の拡大や改善を通じて、より多くの社会課題の解決を試みるために不可欠な手段です。収益と社会性のバランスを保ちながら活動する点が、ソーシャルベンチャーの特徴といえるでしょう。
文:Taeko Adachi





