ECブランドの立ち上げにおいて、単に商品を用意してECサイトを作るだけでは十分ではありません。自社ブランドを確立するためには、誰に向けて、どのような価値を届けるのかを明確にし、販売方法や集客、購入後の体験まで一貫して設計することが大切です。競争の激しいEC市場でも、独自のポジションを構築できれば、価格競争に巻き込まれにくくなります。
一方で、何から始めればよいかわからない、と悩む人も多いかもしれません。ECブランドを立ち上げるためには、ロゴやサイトを作ることだけでなく、市場リサーチや商品企画、販売チャネルの選定、改善の繰り返しまで含めて考える必要があります。
この記事では、市場調査から商品企画、ブランド設計、ECサイト構築、集客、改善まで、ECブランドを立ち上げるための手順を、10のステップでわかりやすく解説します。
目次
1. 市場とターゲット顧客を調査する
ECブランドの立ち上げでは、最初に市場調査を行い、どのような顧客に向けて販売するのかを明確にすることが大切です。市場調査では、まず次の2つを整理しましょう。
- 誰に向けて売るのか:どのような悩みや価値観を持つ人に届けたいのかを考えます。ターゲット市場を広く取りすぎると差別化しにくくなるため、立ち上げ初期はニッチな層に絞るほうが効果的です。
- 競合はどのような売り方をしているのか:Amazonや楽天市場などのECモール、競合ブランドのECサイトを見て、売れ筋商品や価格帯、訴求ポイントを確認します。
こうして整理すると、競合との差や、自社が狙うべき切り口、まだ十分に満たされていないニーズが見つけやすくなります。
たとえば、小柄な女性向けアパレルブランドのCOHINA(コヒナ)は、創業者自身が感じていた「サイズが合う服が見つかりにくい」という悩みから生まれたブランドです。小柄な女性にターゲットを絞り、その悩みを解決するアイテムを展開することで、独自のポジションを築いています。
2. 売る商品を決め、ニーズに合う商品企画を固める
ECブランドの立ち上げでは、最初に「何を売るか」を決めるだけでなく、その商品がどのような悩みやニーズに応えるのかを整理することが大切です。市場調査とあわせて商品リサーチを行い、どのターゲット市場を狙うのかを明確にすると、商品企画の方向性が定まりやすくなります。
機能性を重視するのか、デザイン性を打ち出すのか、手軽さを強みにするのかによって、企画の方向性は変わります。競合商品を見ながら、価格帯、成分や素材、使用場面などを比較すると、自社が狙うべき切り口が見えやすくなります。商品を用意する方法には、主に次のような選択肢があります。
- 自社で企画・製造する:独自性を出しやすい一方で、開発コストや時間がかかります
- ホワイトラベルを活用する:既存商品に自社ブランド名を付けて販売する方法です
- プライベートレーベルを活用する:既存商品をもとに仕様やパッケージを調整し、独自ブランドとして展開する方法です
それぞれメリットや負担が異なるため、どの方法を選ぶ場合も、発注先や製造先の最小ロット、試作品の確認方法、在庫管理や発送の負担を事前に確認することが大切です。立ち上げ初期は商品数を広げすぎず、ブランドのUSPが伝わる主力商品から始めることにより、訴求がしやすく、商品マーケティングにもつなげやすくなります。
3.ブランドコンセプトとポジショニングを定める
商品が決まったら、次はブランドコンセプトとブランドポジショニングを明確にします。ここでは、「誰に向けたブランドなのか」「どんな価値を届けるのか」「競合と何が違うのか」を言葉にすることが重要です。機能性、専門性、世界観、ライフスタイル提案など、自社ならではの立ち位置を整理する必要があります。ブランドコンセプトやメッセージは、次の流れで考えると整理しやすくなります。
- 商品の特徴:素材、機能、使いやすさなど、競合と違う点
- 顧客が得る価値:どのような悩みを解決するのか
- 感情面の価値:選ぶことでどのような共感や満足感が得られるのか
- ブランドの核となるメッセージ:上の要素をつなぐ、ブランドとして伝えたい価値
こうした流れを整理しておくと、ブランド戦略にも一貫性が生まれます。また、ブランドコンセプトを支えるブランドストーリーも整理しておきましょう。ブランドが生まれた背景や、「なぜその商品を届けたいのか」という想いが伝わると、機能や価格だけではない共感につながりやすくなります。
たとえば、北欧、暮らしの道具店は、「フィットする暮らし、つくろう」というコンセプトを掲げ、自分のモノサシで心地よく暮らしたい人に向けた世界観を一貫して発信しています。商品ページや読みもの、動画からポッドキャストまでブランドの価値観がそろっているため、どのような暮らしを提案するブランドなのかが伝わりやすくなっています。
4. ブランド名・ロゴ・デザインの方向性を決める
ブランド名やロゴ、デザインは、ECブランドの第一印象を左右する重要な要素です。ECでは商品ページやSNS、広告などを通してブランドに触れることが多いため、見た目や表現に一貫性があるほど、他ブランドとの違いが伝わりやすくなります。ブランドアイデンティティを考えるときは、次の要素を決定することが大切です。
- ブランド名やロゴ:覚えやすく、商品カテゴリや世界観とずれていないもの
- 配色や書体、写真のトーン:ECサイトやSNS、広告でも統一感が出るようにする
- パッケージや言葉づかい:高級感、親しみやすさ、機能性など、伝えたい価値が伝わるようにする
見た目は後から変えられると思うかもしれませんが、似た印象のブランドが多いと、顧客に違いを認識してもらいにくくなります。
たとえばランドセルづくりからはじまった土屋鞄製造所は、「時を超えて愛される価値をつくる」という価値観を軸にしたブランドです。シンプルで統一感があり、落ち着いた色使いのサイトデザインにも、上質で長く使えるという印象が表れています。
5. 立ち上げに必要な予算と運営体制を整える
ECブランドを立ち上げるときは、商品開発や仕入れだけでなく、ECサイト構築、商品写真の撮影、パッケージ、広告、在庫、配送など、どこに費用がかかるのかを整理しておくことが大切です。最初から大きく投資しすぎると、売れ行きが想定とずれたときに立て直しにくくなります。まずは小さく始め、反応を見ながら広げるほうが、無理のない運営につながります。また、すべてを自社で抱えるのではなく、物流や在庫管理などは必要に応じて外部パートナーを活用することも重要です。ブランドの理想だけでなく、継続して運営できる体制まで含めて整えましょう。
たとえばD2CアパレルブランドのKnuth Marf(クヌースマーフ)は、少人数のメンバーで立ち上げられ、もともとは自社出荷で月200件ほどに対応していましたが、Knuth Marfのローンチをきっかけに物流体制を見直しました。Shopify連携や物流アウトソーシングを取り入れることで、月1,000〜3,500件の出荷にも対応できる体制を整えました。
6. ECサイトと販売チャネルを構築する
ブランドの方向性が決まったら、次はどこで売るかを考えます。自社ECサイトは、ブランドの世界観や顧客体験を自分たちで設計しやすく、長く育てていきやすい販売チャネルです。一方で、立ち上げ初期は自社ECだけにこだわるのではなく、SNSやライブコマース、ポップアップストア、ECモールへの出店などを組み合わせたほうが認知を広げやすい場合もあります。大切なのは、売る場所を増やすことではなく、ターゲット顧客と接点を持ちやすいチャネルを選ぶことです。まずは自社ECを軸にしながら、ブランドや商品と相性のよい販売チャネルを組み合わせていきましょう。
たとえばライフスタイルカンパニーのコスメブランドMilleFée(ミルフィー)は、TikTok Shopのローンチ初月に、美容・パーソナルケアカテゴリで最高売上動画1位を獲得しました。海外トレンドを取り入れたコスメやコラボ商品は動画での見せ方と相性がよく、TikTokを利用する層へのアプローチによって、認知拡大と販売の両方につながっています。
7. 商品ページと購入体験を整える
ECでは、実店舗のように商品を手に取ってもらえない分、商品ページそのものが接客の役割を果たします。写真や説明文で魅力を伝えるだけでなく、サイズや仕様、使い方、配送日数、返品条件など、購入前の不安を減らす情報をわかりやすく載せることが大切です。とくに立ち上げ初期は、ブランドの知名度よりも「安心して買えそうか」で判断されることも少なくありません。商品ページの見やすさや購入導線のわかりやすさを整えることで、ブランドへの信頼感も高まりやすくなります。
たとえばFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)は、オーダーメイドという、注文しづらそうなイメージのある商品を取り扱っていますが、商品カテゴリや採寸方法、購入までの流れをわかりやすく整理することで、顧客の不安を軽減しています。WEBとLINEで体型診断といったコンテンツも提供されているため、楽しみながら、自分の体格に合った一着を選べる導線が整っています。このように、商品の魅力だけでなく、安心して購入できる体験を設計することが、ECブランドでは特に重要です。
8. 集客方法を決め、ブランドの認知を広げる
ECブランドは、ECサイトを作っただけで自然に売れていくわけではありません。立ち上げ初期は、ターゲット顧客にどうやって知ってもらうかを考え、集客方法を決めることが大切です。代表的な方法には、SNS運用、広告配信、インフルエンサー施策、SEO、メールマーケティングなどがありますが、すべてを一度に始める必要はありません。まずは、ターゲットが普段どこで情報を集めているのかを見極め、ブランドや商材と相性のよい方法から始めることが重要です。単発の流入で終わらせず、継続的に接点を持てる形を意識すると、認知を広げやすくなります。
たとえばパーソナライズビューティケアブランドのFUJIMI(フジミ)は、美容や健康の悩みに応じた診断コンテンツを入り口にすることで、商品を売る前に顧客の関心を引きつけ、認知拡大と購入につなげている点が特長です。
9. 購入後の顧客体験を設計する
ECブランドでは、商品が売れたあとも顧客体験が続きます。配送が遅い、梱包に丁寧さを欠く、問い合わせしづらいといったことがあると、商品そのものの印象まで下がってしまいます。反対に、購入後の体験がスムーズだと、ブランドへの信頼につながりやすくなります。こうした体験の積み重ねは、口コミやレビュー、再購入にもつながり、ECブランドの価値を育てる土台になります。購入後の体験を設計するときは、次のような点を意識しましょう。
- 配送がわかりやすいこと:発送予定日や配送状況が確認しやすいと、安心感につながります。
- 問い合わせしやすいこと: 連絡先やFAQが見つけやすく、対応が丁寧だと信頼を得やすくなります。
- 再購入しやすい導線があること:フォローメールやレビュー依頼、LINE配信、会員特典などがあると、再訪や再購入のきっかけをつくりやすくなります。
- ブランドとのつながりを感じられること: ライブ配信、UGCの紹介、ロイヤルティ施策などを通じて、顧客がブランドや他の顧客との距離を近く感じられると、ファン化や口コミにつながりやすくなります。
新規顧客を集めるだけでなく、「また買いたい」「人にすすめたい」と思ってもらえる流れをつくることが、ECブランドを長く育てるうえで大切です。
たとえばファッションレンタルサービスのairCloset(エアークローゼット)は、登録・発注はスマートフォンで完結でき、着用後のクリーニングは不要で返却期限もなし、全国のコンビニから二次元コードを使って返送できる、という、ユーザーの手間をなるべく省いた設計になっています。商品そのものだけでなく、受け取りから返却までの体験を含めて設計することで、継続利用しやすい仕組みをつくっています。
10. テスト販売と改善を繰り返し、ECブランドを育てる
ECブランドは、立ち上げ時にすべてを完成させる必要はありません。実際に販売を始めてみると、想定していた訴求より別の切り口が響いたり、売れると思っていた商品より別の商品に反応が集まったりすることがあります。そのため、最初は小さく始めて、アクセス数、購入率、レビュー、問い合わせ内容などを見ながら改善を重ねることが重要です。期間限定販売や先行販売、少量展開などで反応を確かめると、大きな失敗を避けながら方向性を調整しやすくなります。ブランドは作って終わりではなく、顧客の反応を見ながら育てていくものです。
たとえば月桂冠の「Gekkeikan Studio」は、小ロットで販売しながら顧客の声を集め、商品をアップデートしているプロジェクトです。実際に、第一弾商品を改良した展開も行っており、最初から完成形を販売するのではなく、反応を見ながら磨いていく姿勢は、ECブランドの立ち上げでも参考になります。
まとめ
ECブランドの立ち上げでは、市場や顧客を理解し、ニーズに合った商品を企画し、ブランドコンセプトや販売までの流れを一貫したブランド戦略として整えることが重要です。さらに、商品ページや配送体験、集客方法、改善の仕組みまで設計できると、売上だけでなくブランドへの信頼も育てやすくなります。
最初からすべてを完璧にそろえる必要はありません。まずは主力商品とターゲットを明確にし、小さく始めて反応を見ながら改善を重ねることで、自社らしいECブランドを構築し、育てていくことができます。ブランドの世界観と顧客体験を少しずつ磨きながら、長く選ばれるECブランドを目指しましょう。
ECブランドの立ち上げに関するよくある質問
ECブランドの商品を用意する方法は?
ECブランドの商品を用意する方法として、主に以下の3つが考えられます。
- 自社で企画・製造する:独自性を出しやすい一方で、開発コストや時間がかかります
- ホワイトラベルを活用する:既存商品に自社ブランド名を付けて販売する方法です
- プライベートレーベルを活用する:既存商品をもとに仕様やパッケージを調整し、独自ブランドとして展開する方法です
ECブランドの立ち上げで、最初にやるべきことは?
最初にやるべきことは、市場調査をしたうえで「誰に向けて、どのような悩みを解決する商品を売るのか」を決めることです。商品カテゴリやECブランド名から考えたくなりますが、ターゲット顧客やニーズがあいまいなままだと、その後の商品企画や価格設定、ブランドコンセプト、集客方法まで一貫性のあるブランド戦略を構築することが難しくなります。まずは市場調査を行い、競合や顧客の悩みを整理するところから始めるのがおすすめです。
ECブランドのターゲット市場はどのように決める?
広い市場を狙うより、特定の悩みや価値観を持つ顧客に絞るほうが、自社ECブランドの差別化をしやすくなります。市場調査や商品リサーチを通じて、どの層に強いニーズがあるかを確認しましょう。
文:Taeko Adachi





