デジタル製品パスポートは、EU(欧州連合)を中心に導入や義務化が進む情報開示の仕組みです。EU向けに対象製品を販売する企業やそのサプライチェーンに関わる事業者も、対応を求められる可能性があります。
この記事では、デジタル製品パスポートの概要や記載される情報、EUで導入が進む背景、日本企業への影響や準備方法などを解説します。規制の全体像をつかみ、必要な措置を検討する参考にしてください。

デジタル製品パスポートとは
デジタル製品パスポートとは、製品の原材料の調達から製造、使用、廃棄、リサイクルに至るまでの情報をデジタル上で記録し、関係者間で共有する仕組みです。製品ごとに固有の識別子を含む二次元コードやJANコードなどが付与され、それを読み取ることで製品にひも付いた情報にアクセスできます。
デジタル製品パスポートは情報を一元的に可視化し、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティを高める役割を果たします。たとえば消費者は、店頭やオンラインで二次元コードを読み取り、その商品が本当に環境に配慮した商品なのかを確認したうえで購入を判断できるようになります。
デジタル製品パスポートに記載される情報
デジタル製品パスポートに含まれる情報は、対象となる製品カテゴリや、EUが製品群ごとに定める委任規則によって異なりますが、主に以下のような情報の記載が求められています。
- 製品情報:製品名や型番、製品カテゴリのほか、製造や流通に関わる事業者や施設を識別する情報が含まれます。
- 素材構成:原材料や部品の構成に関する情報で、対象カテゴリによっては再生材の含有率なども含みます。EV用バッテリーでは、電池化学組成やリチウム、コバルトなどの重要原材料に関する情報が該当します。
- 環境負荷に関する情報:製造や使用の段階でのエネルギー消費量、カーボンフットプリントなど、環境負荷に関する指標などが含まれます。
- 社会、倫理に関する情報:責任ある原材料調達や、製品に関わる人の人権や環境への配慮に関する取り組み、フェアトレード認証などが該当します。
- 修理やメンテナンスの情報:部品の分解や交換、修理方法に関する情報です。製品を長く使い、廃棄物を減らすことを目的としています。
- リサイクルや廃棄のガイドライン:リサイクル方法や製品を適切に廃棄するための手順に関する情報です。
- 製品ライフサイクル情報:保証内容や想定耐用年数、耐久性や修理のしやすさに関する情報、EUエコラベルなどの認証などが含まれます。

EUでデジタル製品パスポートが義務化される背景
EUがデジタル製品パスポートの導入を主導する背景には、資源を使い捨てにせず循環させるサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行という政策方針があります。その一環として、製品の情報開示を強化する手段にデジタル製品パスポートを位置づけ、2024年7月に施行した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則/ESPR(英語)」で法的に義務化しました。
欧州委員会がデジタル製品パスポートを採用するねらいは、主に次の4つです。
- 循環型経済の促進:製品の分解や再利用の方法を示すことで、リサイクルや修理を促します。
- 消費者の信頼向上:製品のサステナビリティや品質に関する情報を明示することで、消費者は自分の価値観に合う商品かどうかを判断しやすくなります。根拠のある情報に基づいて選べることが、企業や製品への信頼にもつながります。
- グリーンウォッシングの防止:グリーンウォッシングとは、実態が伴わないのに環境に配慮しているように見せかけることです。標準化された情報を提示することで、企業のサステナブルな取り組みが実態を伴うものかを検証できるようにします。
- 市場機会の創出:規制への対応が新たな製品やビジネスアイデアを生み、責任ある材料調達や生産に力を入れる企業とサステナビリティを重視する消費者を結びつけ、新しいビジネスの機会をもたらします。

デジタル製品パスポートが日本企業に与える影響
日本を拠点とする事業者であっても、EU市場で対象製品を販売する場合は、デジタル製品パスポートへの対応が必要です。
適用期限は製品カテゴリごとに定められ、バッテリー分野では電動自転車などに使用されるLMT用バッテリーと、容量2kWhを超える産業用バッテリーが、2027年2月18日までの対応が求められています。その他の製品については、今後制定される製品別の委任規則によって、具体的な要件や適用時期が定められる予定です。対応が間に合わなければ、EU市場での販売ができなくなるおそれがあります。
また、自社がEUへ直接輸出していなくても、サプライチェーンを通じて影響を受ける可能性があります。製品別の要件によっては、素材構成や製造拠点、環境負荷などの情報をサプライチェーンの上流から収集する必要があるためです。たとえば、EU市場向けの対象製品を製造するメーカーに部品や素材を納めている場合、取引先からデジタル製品パスポートに必要なデータの提供を求められる可能性があります。
国内でも、経済産業省は「繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン」を示しています。国内外で情報開示やトレーサビリティを重視する動きが強まっているため、デジタル製品パスポートは今後さらに広がると見られます。

デジタル製品パスポートへの準備方法
デジタル製品パスポート関連の規制を把握する
まずは、自社の業界に関わるデジタル製品パスポートの規制や委任規則を確認しましょう。特に電子機器や繊維、バッテリーを扱う場合は、今後変化していく要件に注意が必要です。規制を早めに把握しておくことは、法令への適合はもちろん、同じ業界のなかで競争優位を保つことにもつながります。
最新の導入スケジュールは、欧州委員会のウェブサイト(英語)で確認できます。
データ収集システムを導入する
デジタル製品パスポートに対応したサービス事業者と連携し、サプライチェーン全体をカバーできるデータ収集システムを構築します。こうした事業者のサポートを受ければ、製造工程に変更があった際も、オンラインのデータベースを通じてデジタル製品パスポートを遠隔で適宜更新できます。
また、こうしてサプライチェーン全体で集めたデータを分析すれば、業務の効率化やトラブル発生時の対応にも役立ちます。
データキャリアを選定する
記録した情報を製品とひも付けるには、「データキャリア」と呼ばれる媒体が必要です。代表的なものに、二次元コードやRFID(電波を使った非接触タグ)、NFCタグなどがあります。製品の形状や使用環境、コストに応じて適切な方式を選びましょう。
たとえば衣類のように洗濯を繰り返す製品では、生地に縫い込んだり熱で圧着したりして作られたRFIDタグの一種である「ランドリータグ」が適しています。
バリューチェーンを構築する
バリューチェーンとは、原材料の調達から製造、販売後のサービスまで、各段階で価値を生み出していく一連の事業活動です。バリューチェーンを分析することで、自社の事業を改善し、競争優位を築くのに役立ちます。あらゆる段階を見直すことで、付加価値や顧客満足度、収益の向上につなげられます。
さらに、サプライヤーや物流事業者と連携してデータを統合し、バリューチェーン全体の透明性を高めることで、デジタル製品パスポートの基準を満たすことができます。
新しい製品やサービスの設計時にDPPを意識する
新しい製品やサービスを導入するときは、デジタル製品パスポートへの対応もあらかじめ視野に入れておきましょう。デジタル製品パスポートの導入は、新たな収益源を生み出すきっかけにもなります。たとえば製品の延長保証や修理キットの提供、使用済み製品の回収サービスなど、循環型のサステナブルな事業が考えられます。
デジタル製品パスポートの規制に対応すると、商品を長く使ってもらえるようになります。さらに、環境への意識が高い消費者から選ばれやすくなるため、付加価値のあるビジネスモデルを構築するうえでも有効です。
まとめ
デジタル製品パスポートは、製品のライフサイクル全体の情報をデジタルで開示する仕組みで、EUを中心に対象製品の範囲が広がっています。日本企業も、EUへの輸出やサプライチェーンを通じて対応が求められる場面が増えていくと考えられるため、規制の動向を早めに把握し、情報の管理体制を整えていくことが、これからの競争力につながるでしょう。
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デジタル製品パスポートに関するよくある質問
国内のデジタル製品パスポートの導入事例は?
アパレル分野では、株式会社ワーキングハセガワと株式会社chaintopeが、医療ウェアブランド「sukui(スクイ)」にデジタル製品パスポートを導入し、ブロックチェーン技術を活用して、製品の環境負荷やサプライチェーン情報を可視化しています。
ほかにも、2025年に株式会社サトーと株式会社ナカダイホールディングスなどが連携し、回収したラベルプリンターを解体して再生素材にしてその工程をデジタル製品パスポートで記録する実証実験を行っています。
デジタル製品パスポートの導入はいつから?
EUエコデザイン規則は2024年7月に発効しており、デジタル製品パスポートは製品カテゴリごとに段階的に導入されます。先行するEUバッテリー規則では、2027年2月から、容量が2kWhを超える産業用バッテリーなどにバッテリーパスポートが義務づけられます。
デジタル製品パスポートはEU以外でも義務化されている?
現時点でデジタル製品パスポートの導入を法制化しているのは主にEUですが、製品の透明性やサステナビリティを重視する流れは世界的に広がっています。日本を含む各国でも関連する議論や検討が進んでおり、将来的に対象地域が拡大していく可能性があります。




