ECサイトの運営では、ECプラットフォームや決済システム、在庫管理システムなど、さまざまなクラウドサービスを利用することが多いでしょう。これらのサービス品質や対応範囲があいまいなままだと、システム障害発生時に思わぬトラブルに発展する可能性があります。
サービス品質や対応基準を明確にするには、SLA(サービスレベルアグリーメント)を締結することが重要です。サービスがどのような基準で提供されるのか、問題が起きた場合にどのような対応が行われるのかをサービス提供者と取り決めておくことで、安定したECサイト運営につながります。
本記事では、SLAの概要や重要性に加えて、SLAの種類や規定すべき項目などについてわかりやすく解説します。

SLAとは
SLAとは「Service Level Agreement」の略で、サービス提供者と利用者の間で、提供するサービスの範囲や品質水準をあらかじめ定めるものです。日本では「サービスレベルアグリーメント」や「サービス品質保証契約」とも呼ばれます。
SLAは、主にクラウドサービスやシステム運用、ITサポート、通信サービスなどの分野で活用されており、サービス稼働率や応答時間、障害発生時の復旧時間などの指標を定めることが一般的です。
SLAはサービス品質を客観的に判断するための基準となるものであり、サービス提供者と利用者双方の期待値や責任範囲を明確にする役割があります。あらかじめ基準を共有することで、サービスに関する認識のズレを防ぎ、トラブル発生時も迅速かつ適切な対応につなげられます。
SLIやSLOとの違い
SLA、SLI、SLOには次のような違いがあります。
- SLA:サービス提供者と利用者との間で交わされるサービス品質に関する契約
- SLI(サービスレベル指標):サービス品質を測定するための指標
- SLO(サービスレベル目標):サービス品質の目標値
SLIでは「何を測定するか」を定め、SLOではSLIに対して「どのぐらいを目標とするか」を数値で設定します。SLAはこれらの指標や目標を踏まえて、利用者に提供するサービス品質を契約として定めます。

SLAが重要な理由
サービス品質を定量的に評価できる
SLAを定めることで、評価基準を数値を使って明文化できるため、客観的にサービス品質を評価できます。サービス提供側は品質管理や改善に取り組みやすくなり、安定したサービス提供と継続的な品質改善につなげられます。利用者側にとっても、契約で合意したサービス品質が確保されているかを客観的に確認できます。
認識のズレを防げる
SLAを設定しておくことで、サービス提供者と利用者の間で認識のズレを防ぎやすくなります。サービスの対象範囲、対応時間、サポート内容、障害発生時の連絡方法、復旧までの目標時間などが明確になっていない場合、利用者が期待する対応と実際に提供される対応に差が生じる可能性があります。
特に、システム障害やカスタマーサービス対応などは、認識のズレがトラブルにつながりやすいため、サービス内容や品質基準を事前に合意しておくことが重要です。あらかじめSLAで明文化しておくことで、どこまでがサービスに含まれるのか、どのような条件で対応が行われるのかを双方で共有できます。
トラブル発生時の体制を整備できる
SLAでは、サービス品質に問題が生じた場合の対応をあらかじめ定めることができます。障害発生後の連絡方法、初回対応までの時間、復旧までの目標時間、報告のタイミング、影響範囲の共有方法などが明確になり、トラブルが発生した際も混乱を抑え、迅速かつ適切な対応につなげやすくなります。
また、サービス停止や品質未達が発生した場合の補償として、サービスクレジットの付与や利用料金の減額などの救済措置も定められます。こうした取り決めは、サービス利用に伴うリスクの軽減につながります。

SLAの種類
顧客向けSLA
顧客向けSLAとは、サービス提供者と顧客の間で取り決めるSLAです。サービスの提供範囲、稼働率、サポート対応時間、障害発生時の対応内容、復旧までの目標時間などの指標を定めます。顧客向けSLAを明確にしておくことで、利用者は契約前にサービス品質やサポート体制を確認しやすくなります。
また、サービス提供側にとっても、合意した基準に沿ってサービスを管理しやすくなる点がメリットです。外部の取引先や利用企業に対して、安定したサービス提供を示すうえで重要なSLAといえます。
社内SLA
社内SLAとは、企業内の部門やチーム同士で取り決めるSLAです。たとえば、情報システム部門が社内ユーザーに対して、問い合わせへの対応時間、システム復旧の目安、アカウント発行や各種申請の処理時間などを定めるケースがあります。
社内SLAを設定することで、依頼する側と対応する側の基準が明確になり、部門間の認識違いや対応のばらつきを抑えやすくなります。また、対応状況を可視化できるため、業務の属人化を防ぎ、改善点も見つけやすくなります。
社内サービスの品質を安定させ、業務効率を高めるのに役立つのが社内SLAです。
マルチレベルSLA
マルチレベルSLAとは、複数の階層に分けて設定するSLAです。組織全体で共通する基本的なサポート方針を定めたうえで、顧客や事業部門ごとに対応時間や補償内容を設定し、さらにサービスごとに稼働率や復旧目標時間などの指標を個別に定められるため、顧客やサービスごとのニーズに柔軟に対応できる点がメリットです。
複数のサービスや顧客層に対応する企業では、すべての条件を個別に管理すると内容が複雑になりやすくなります。マルチレベルSLAを活用すれば、共通項目と個別項目を整理しやすくなり、管理の効率化や運用負担の軽減につながります。

SLAに規定すべき内容
SLAには、サービス提供者と利用者の認識のズレを防ぐため、主に以下の内容を規定します。
- サービスの対象範囲:対象となるサービスや機能などを明確にします。
- サービス品質の基準:稼働率や応答時間、障害からの復旧時間など、達成すべき水準を具体的な数値で定めます。
- 品質の測定方法:品質を測定する期間や計算方法、計画メンテナンスの扱いなどを記載します。
- 障害・問い合わせへの対応:受付時間や連絡方法、一次回答までの時間、障害発生時の対応手順などを定めます。
- 責任範囲と免責事項:サービス提供者と利用者それぞれの責任範囲や、天災などサービス提供者が責任を負わない条件を明確にします。
- 基準未達時の対応:SLAで定めた基準を満たさなかった場合の返金や料金減額、サービス期間の延長などを規定します。
各項目はあいまいな表現を避け、可能な限り具体的な数値や条件を用いて定めることが重要です。

SLAを締結する際のポイント
契約前にサービスレベルと評価指標を確認する
SLAを締結する際は、契約前にサービスレベルと評価指標の内容を把握しておくことが重要です。たとえば、稼働率、応答時間、復旧までの目標時間、カスタマーサポート対応時間などがどのように定義されているかを確認します。同じ「稼働率99.9%」という表記でも、計測対象や除外条件、メンテナンス時間の扱いによって、実際の意味が異なる場合があります。
また、業務への影響が大きいサービスを利用する場合は、障害発生時の初動対応や復旧目標が自社の要件を満たしているかという点も重要です。
契約前にSLAの内容を十分に確認しておくことで、導入後の認識のズレやトラブルを防ぎやすくなります。
SLAを比較検討する
SLAはサービスごとに内容が異なるため、自社の業務内容や利用目的に合っているかを比較検討することが重要です。
たとえば、同じクラウドサービスでも、稼働率、サポート対応時間、障害発生時の連絡方法、復旧目標時間、補償内容などは、提供会社や契約プランによって異なります。単に料金や機能だけで判断すると、実際の運用時に必要なサポートを受けられなかったり、障害時の対応が自社の要件に合わなかったりする可能性があります。
複数のサービスを比較する際は、業務への影響度を踏まえ、必要なサービスレベルが満たされているかを確認しましょう。
SLAを定期的に見直す
SLAは一度締結して終わりではなく、サービスの利用状況や業務環境の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。導入時には十分だと考えていたサービスレベルでも、利用者数の増加や業務範囲の拡大、システムの重要度の変化によって、求められるサービス品質が変わる場合があります。
定期的に内容を確認し、現状に合わない項目や基準を更新することで、自社に必要なサービス品質を維持しやすくなります。
サービス実績を継続的に確認する
SLAを適切に運用するには、合意したサービスレベルが実際に守られているかを継続的に把握することが重要です。
サービス提供者からのレポートや定例会議を通して、稼働率、応答時間、復旧までの時間、問い合わせ対応件数、障害発生件数などの実績を確認することで、問題点や改善点を早期に見つけやすくなります。
継続的にサービス実績を把握することで、SLAを形だけの取り決めにせず、サービス品質の維持や改善につなげられます。
まとめ
SLAは、サービス提供者と利用者の間でサービス品質や対応範囲を明確にするための重要な取り決めです。稼働率や応答時間、障害発生時の対応内容などサービス内容や評価基準を事前に定めておくことで、認識のズレやトラブルを防ぎやすくなります。
また、SLAは一度作成し締結したら終わりではありません。契約前の確認や定期的な見直し、実績の評価を行いながらSLAを運用していくことで、自社に必要なサービス品質を維持し、安定したシステム運用につなげられます。
SLAに関するよくある質問
SLAには法的拘束力がある?
はい。SLAが契約書や利用規約の一部として合意されている場合、法的拘束力を持ちます。ただし、単なる目標値として示されている場合は、法的拘束力を持たないことがあります。
SLAの対象外になるケースはある?
SLAには、サービス提供者の責任範囲外として扱われる条件が定められていることがあります。たとえば、定期メンテナンス、利用者側の設定ミス、外部サービスの障害、災害や大規模な通信障害などは対象外となるケースがあります。
SLAは中小企業でも必要?
中小企業であっても、業務にクラウドサービスやシステムを利用している場合は、SLAを確認しておくことが重要です。特に、ECサイトや予約システム、CRMシステムなど、停止すると売上や顧客対応に影響するサービスでは、稼働率やサポート体制などを把握しておく必要があります。
SLAとSLOの違いは?
SLAとSLOの違いは、合意内容か、目標値かです。SLAは、サービス提供者と利用者の間で合意するサービス品質の取り決めである一方、SLOは稼働率や応答時間などのサービス品質の目標を指します。




