越境ECでは、海外顧客が自国通貨で価格を確認し決済できないと不安や不便さを感じてしまい、購入に至りにくくなってしまうため、多通貨決済の導入が大切になります。一方で、多通貨決済を導入する事業者は、コストや技術的な問題、運用負荷、為替変動リスクなどの課題にも直面します。
こうした課題に対し多通貨決済を適切に導入することで、その分のコストや業務時間をグローバル展開に向けたマーケティングや商品開発などに注力でき、さらなる売り上げアップにつなげられます。
この記事では、多通貨決済をECストアに導入するメリットや注意点、Shopify(ショッピファイ)で簡単に多通貨決済を導入する方法について解説します。

多通貨決済とは
多通貨決済とは、ECストアが複数の通貨での価格表示や決済に対応する仕組みです。多通貨決済を導入すると、顧客の所在地に応じて現地通貨で商品価格が表示され、顧客は現地通貨で支払いできます。
近年、越境EC市場は世界的に拡大を続けており、JETROの報告書によると、2024年の世界の越境EC小売市場規模は5,210億ドル(当時の平均為替相場で約78兆4500億円)に達し、2015年と比較して約5倍に成長しました。
こうした市場拡大を背景に、海外顧客が自国通貨で購入できる環境を整えることは、越境EC事業者にとって重要な取り組みとなっています。

多通貨決済のメリット
1. 海外顧客の満足度向上
多通貨決済を導入し、海外顧客が使い慣れた現地通貨で価格を表示することで、顧客自身で通貨を換算したり為替レートの変動を気にしたりする必要がないため、顧客満足度の向上が期待できます。
例えば、米国の顧客が日本のECサイトを訪れた際、商品価格がすでに米ドル表示であれば、日本円から換算する手間をかけずに商品の価格を把握できます。これにより、購入時の不安軽減やスムーズな購買体験が実現でき、サイトに対する信頼感の向上にもつながります。
2. コンバージョン率の向上
現地通貨による価格表示だけでなく、多通貨決済によって市場に適した決済環境を整えることが、コンバージョン率の向上にもつながります。米国および英国の消費者を対象とした調査(英語)では、回答者の49%が、希望する決済方法を利用できない場合は購入を断念すると回答しています。
また、中国市場向けにはAlipay(アリペイ/支付宝)、インド市場向けにはPaytm(ペイティーエム)など、市場ごとのニーズに合わせた決済方法を導入することが重要です。
3. 市場ごとの価格最適化
多通貨に対応したECサイトでは、各市場の経済状況や競争環境、購買力に応じて価格を設定できます。これにより、市場ごとの競争力を維持しながら収益の最大化を目指せます。
例えば高級ブランドの場合、購買力の高い市場では価格を高めに設定し、価格重視の消費者が多い市場では、競合に負けない価格に設定するといった戦略が可能です。
4. コスト削減と業務効率化
適切な多通貨決済を導入することで、決済関連のコスト削減や業務効率化が期待できます。
Shopifyのような多通貨決済に対応したECプラットフォームを利用すれば、現地法人や現地口座の開設なども必要なく、低コストで世界中に展開できます。また、為替や決済方法についての問い合わせ対応などの業務負担もなくなります。
さらに、現地で普及している決済手段への対応や取引処理の最適化、決済データの照合作業の効率化なども一元管理できるプラットフォームであれば、決済プロセス全体の負担を軽減できます。

多通貨決済のデメリット
1. 為替変動リスク
多通貨決済では、為替変動によって売り上げや利益率に影響がでる可能性があります。
通貨の価値は、インフレや地政学的リスク、市場の需給などさまざまな要因によって変動します。例えば、円安時には海外売上の円換算額が増加する一方、円高に転じると受取額が減少する場合があります。
そのため、多通貨で販売する事業者は、為替変動が収益に与える影響を考慮しながら価格設定や運用を行う必要があります。
2. 会計処理の複雑化
多通貨での販売を行う場合、海外取引の売り上げは会計処理のために基準通貨へ換算する必要があります。そのため、通貨換算や入出金データの照合、税務対応などの作業が発生し、会計処理が複雑になる可能性があります。特に取引件数が増えるほど、管理負担や入力ミスのリスクも高まります。
3. 取引コストやリスクの増加
多通貨決済に対応すると、決済代行会社や金融機関に支払う手数料が高くなる場合があります。例えば、米ドル、英ポンド、日本円など複数の通貨に対応している場合、決済サービス事業者から、取引ごとに通貨換算の追加手数料を請求されることがあります。また、海外取引では不正利用やチャージバック(支払い取消し)のリスクも高まります。
また、ネットショップの運営拠点国の現地通貨とは異なる通貨で販売を行う場合は、関連する法規制や税務上の影響について事前に確認することも大切です。
ShopifyによるECストアの多通貨決済
デジタルコマースに関する調査を行うPYMNTS Intelligence(ペイメンツ・インテリジェンス)とWorldpay(ワールドペイ)の共同調査(英語)によると、消費者の94%が自国通貨での支払いを期待しており、99%が普段利用している決済手段の利用を望んでいます。
Shopifyの決済方法であるShopifyペイメントを使えば、ECストアに簡単に多通貨決済を導入でき、セキュリティも万全です。Shopifyペイメントで多通貨決済に対応したチェックアウト体験を提供するメリットには以下の3つがあります。
1. スムーズなグローバル展開の実現
Shopifyペイメントの多通貨機能を利用すると、一つのストアで複数の通貨による販売に対応できます。市場ごとのニーズに応じて対応通貨を追加または削除できるため、新たな海外市場への展開や運用方針の見直しにも柔軟に対応できます。
小嶋陽菜さんがプロデュースするライフスタイルブランドのHer lip to(ハーリップトゥ)は、Shopify Plus(ショッピファイ・プラス)の導入を経て、2022年には台湾や香港など8カ国への海外進出を果たしました。
同社では一つの商品ページに対し円を始め米ドル、台湾ドル、タイバーツ、韓国ウォンなど、顧客の配送先地域に応じた通貨で価格を表示しています。
こういった多通貨決済の提供により、以下の成果を収めています。
- 越境ECによる売上増加率:約400%増
- ブランド全体のGMV(流通取引総額):120%増
- 顧客のリピート率:149%増
2. ローカライズされた購買体験の提供
Shopifyペイメントを利用すれば、地域を判別する機能により現在の為替レートに基づいて現地通貨で価格を表示でき、世界中の顧客に地域に合わせた購買体験を提供できます。Shopifyペイメントの多通貨決済では、表示価格は次の流れで計算されます。
- ストアの基本通貨の価格を、現在の為替レートに基づいて現地通貨へ自動換算
- 為替レートと通貨換算手数料を価格に反映
- 必要に応じて端数処理を適用
- 自動為替レートを利用している場合は、通貨換算手数料を表示価格に含める
また、他社決済サービス利用時にかかるShopifyの追加取引手数料が発生せず、通貨換算手数料も明確なため、海外販売時の価格設計に活用しやすくなっています。
インナーウェア大手のワコールでは、アジア事業の強化に向けてベトナム、香港、シンガポールなどの各国向けEC基盤を刷新しました。Shopify Plusの「追加ストア」機能を利用することで、これまで市場ごとに存在したシステムを一元管理化し、現地に適した決済方法や通貨を導入した各国向けストアを構築しています。
その結果、同社は公開直後から以下の成果を上げています。
- ベトナム市場におけるCVR:約40%改善
- 同市場での新規購入者比率:約70%に到達
3. 一元管理による運用効率の向上
Shopifyペイメントの多通貨機能を利用することで、ストアフロント、チェックアウト、注文管理、商品管理、レポートなどを一つのプラットフォーム上で管理できます。商品登録から売上管理まで一貫した運用環境を構築できるため、効率的に海外販売を進められます。
通貨換算は、以下の項目に適用されます。
- 商品価格
- 税金
- ギフトカード
- 割引
- 配送料
- 返金
また、Shopify Functions(ショッピファイ・ファンクション)では、自動割引や特定の決済方法の表示および非表示を設定できます。そのほか、Shopify Flow(ショッピファイ・フロー)を利用することで、海外注文への自動タグ付けなどバックエンド業務の自動化や、マーケティング施策に活用する顧客セグメントの作成などを効率化できます。
このように、複数の市場に対応しながらも運用を一元化できるため、事業者は海外展開に伴う管理負荷を抑えながら、効率的なストア運営を実現できます。

多通貨決済の導入方法
多通貨で価格を表示するには、Shopifyペイメントを有効化した上で、Shopify Markets(ショッピファイ・マーケット)を設定します。Shopify Marketsでは国や地域ごとの設定を管理できるため、通貨だけでなく、ドメインや言語なども市場に応じて最適化できます。
そのほか、Shopifyの多通貨変換アプリのBEST Currency Converter(ベストカレンシーコンバーター)やHextom(ヘクストム)といったアプリを利用することでも、ストアの基本通貨で設定した価格を、顧客が選択した通貨に換算して表示できます。
まとめ
多通貨決済は、海外顧客の購買体験向上やコンバージョン率の改善に役立つ一方で、為替変動リスクや運用負荷への対応も求められます。
ShopifyペイメントとShopify Marketsを活用すれば、現地通貨での価格表示や決済、一元的なストア運営を実現しながら、効率的に海外市場へ展開できます。自社のターゲット市場や事業戦略に合わせて適切な多通貨対応を行い、越境ECの成長と収益拡大につなげましょう。
多通貨決済に関するよくある質問
多通貨決済とは?
ECにおける多通貨決済とは、事業者が海外顧客に対して複数の通貨で商品を販売する仕組みです。一般的には、ECプラットフォームの機能を利用して、多通貨での価格表示や決済を行います。
Shopifyは多通貨決済に対応している?
Shopifyペイメントを利用している場合、複数の通貨での販売が可能です。Shopify Marketsを使って、国や地域ごとの現地通貨による価格表示や決済の設定ができます。
自社ストアの通貨を変更するには?
ストア全体の共通設定として通貨の変更を行う場合は、管理画面の「設定」>「一般」>「ストアのデフォルト」のメニューから「ストア通貨を変更」を選択し、使用する通貨を選んで保存します。
国ごとの個別設定を行う場合はShopify Marketsまたはアプリでの設定が必要です。




